長野市
ima建築設計室
ima建築設計室 (長野市)
須坂市 / A邸
どこからでも家族の声が聞こえるオープンな間取り。南側の大きな窓からは爽やかな風が吹き抜け、開放的な空間を包むのはラワン材を使ったレトロな質感の床。施主が思い描く理想の暮らしに寄り添いつつ実用性を意識したアイデア溢れるこの家は、小さな工夫をコツコツ積み重ねてローコストも両立させた。設計したのは、施主の兄でもある一級建築士の上野健志さん。弟家族を見守る中で、「仲の良い家族だけど、子どもの成長に伴いそれぞれの時間を持つようになってきた。ある程度の距離を保ちながらも、家族のつながりを感じられる居心地のいい家にしたい」とイメージを膨らませた。
離れているのにつながっている…、そんな難問を克服するアイデアのひとつが、2階の「スタディコーナー」だ。廊下の床はなんとすのこで、そこに座って勉強や読書などをする子ども達。上下階を意識せず、家族との会話が弾む。1階には施主の要望だった広い土間玄関と和室が。玄関はスライドドアにすることで広さを有効活用でき、和室は吊押入れと地窓が軽やかな心地よさを生み出した。「どちらもポイントは〝抜け感〟」と上野さん。「リビングダイニングが限られた面積でも、各所に視線の抜けを設ければ開放感を味わえます」。例えば玄関に入ると、目線は自然と奥の和室へ。必要に応じて土間玄関とリビングダイニングを仕切ることもできる。
伸びやかな暮らしの一方で、プライベートタイムも大切に。奥さまが「私の部屋」と呼ぶクローズタイプのキッチンはそのひとつだ。自作の棚や2種を貼り分けたタイル、パントリーとつながる便利な動線など、奥さまのこだわりがぎっしり。家族のつながりを大切にしながら、プライバシーも尊重される。そんな柔軟な住まいとなった。
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玄関土間に和室、オーダーキッチン…といった要望を叶えたうえ、建築費は2300万円台に。秘密のひとつは床材に使用したラワン合板だ。「通常は下地用なので比較的お手頃だし、床材にも使えるのではと思って」と上野さん。自然な色むらやレトロなニュアンスのあるラワン合板は、アンティーク調の家具が多いご夫妻の好みに合うのでは?という予想が的中。自然塗料を施すことで安っぽさを感じさせず、ざっくりとした風合いがシンプルナチュラルな内装と相まって温もりを醸し出す。
家事動線をシンプルにしたいと、浴室と洗面脱衣室を2階に配置したのもコストダウンの勝因。洗濯はもっぱら夜という話を聞き、上野さんは2階の水回りを提案した。長女はテニス、長男はサッカーに励んでいて、洗濯物が多いAさん家族。「2階なら、干す→収納 の動線が短いし、1階がスッキリ保てる」と奥さまも同意した。その結果1階に余裕が生まれ、玄関土間や和室をレイアウトしつつ、1階と2階を同じ面積に。凸凹の少ないシンプルな箱型の住まいは屋根と基礎の面積を抑えられるため、コストダウンにつながるのだという。
「コストは下げても、住まいの性能は下げられない」と上野さん。夏対策として南側の軒を伸ばし、夏場の直射日光を遮りつつ冬は日差しを確保できる。寒さが厳しい北信地域の冬に備えて、断熱や気密もしっかり対応。制震のダンパーも入れて「安心・安全」を徹底させた。希望をカタチに変えた快適な住まいは、Aさん家族を温かくつなげている。(ナガノの家 2019年 春・夏号 vol.11掲載掲載)
リビングダイニングが広く見えるのは、随所に視線の抜けをつくったおかげ。すのこ床は2階のスタディコーナーの床部分で、「誰かが座ると足がブラブラ出てきて面白い」と奥さま。床材に使用されているラワン合板が、こなれ感のある優しげな空間を演出
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